クラウドネイティブWAN くらうどねいてぃぶわん
簡単に言うとこんな感じ!
会社の拠点間ネットワーク(WAN)を、クラウドの考え方で作り直したものだよ! 専用の高価な機器をやめて、ソフトウェアとクラウドサービスで柔軟・安価・スピーディに拠点をつなぐってこと!
クラウドネイティブWANとは
クラウドネイティブWANとは、企業の拠点間を結ぶ広域ネットワーク(WAN:Wide Area Network)を、クラウドの設計思想(クラウドネイティブ)に基づいて構築・運用するアーキテクチャです。従来の専用ハードウェアや閉じた回線(MPLS など)に依存せず、ソフトウェアによる制御・クラウドインフラの活用・インターネット回線の活用を組み合わせて、柔軟かつ低コストなネットワークを実現します。
背景にあるのは、企業システムのクラウド移行です。以前は自社データセンターに集約していたシステムが、AWS・Azure・Google Cloudなどに分散するようになり、「本社のデータセンターを経由して通信する」従来型WANでは遅延が増え、帯域コストが膨らむ問題が顕在化しました。クラウドネイティブWANはこの課題に応えるために生まれた、ネットワークそのものをクラウド時代向けに刷新するアプローチです。
実務では、SD-WAN(ソフトウェア定義型WAN)を中核に置き、SASE(セキュリティ機能を統合したクラウドサービス)と組み合わせる形が主流になっています。発注・選定する立場からは「高額なMPLS専用線をどう置き換えるか」「クラウドSaaSへの通信をどう最適化するか」の文脈で登場することが多い用語です。
クラウドネイティブWANの核心:何が「クラウドネイティブ」なのか
従来型WANとクラウドネイティブWANの違いを比較すると、その本質が見えてきます。
| 比較軸 | 従来型WAN(MPLS中心) | クラウドネイティブWAN |
|---|---|---|
| 回線 | 通信キャリアの専用線(高価・固定) | インターネット+クラウドバックボーン(安価・柔軟) |
| 制御方法 | 機器ごとに個別設定(手作業) | ソフトウェアで一元管理・自動化 |
| セキュリティ | 拠点→本社データセンター→インターネット | クラウド上のセキュリティサービスで直接保護 |
| スケール | 回線増強に数週間〜数ヶ月 | ソフトウェアで即時拡張 |
| コスト構造 | 初期費用大・固定費高 | 従量課金・CapExからOpExへ |
| クラウド親和性 | 低い(迂回ルートが発生しやすい) | 高い(クラウドへの直接接続を最適化) |
3つの構成要素で理解する
クラウドネイティブWANは、おおむね以下の3レイヤーで成り立っています。
- ① アンダーレイ(物理・回線層):インターネット回線・LTE/5G・既存専用線など複数回線を組み合わせて使う
- ② SD-WAN層(制御・最適化層):ソフトウェアが回線品質をリアルタイムに監視し、最適な経路へ自動的に振り分ける
- ③ クラウドセキュリティ層(SASE/SSE):ファイアウォール・ZTNAなどをクラウドから一元提供し、拠点ごとの機器を不要にする
覚え方
「クラWAN(クラワン)=クラウドでWANをワンストップ管理」と覚えると整理しやすいです。ハードからソフト、閉域からクラウドへの転換がポイントです。
歴史と背景
- 〜2010年代前半:企業WANはMPLS専用線が主流。高品質だが高コストで、変更に時間がかかる構造だった
- 2014年頃:SD-WANの概念が登場。VMwareやCisco、新興ベンダーがソフトウェアによるWAN制御製品を市場投入し始める
- 2015〜2017年:Microsoft 365・Salesforce・AWS利用の急拡大により、「全通信を本社経由」モデルの限界が表面化
- 2019年:ガートナーがSASE(Secure Access Service Edge)を提唱。SD-WANとセキュリティをクラウドで統合する概念として注目を集める
- 2020年(コロナ禍):テレワーク急拡大で拠点の概念が変化。「オフィス拠点だけでなく自宅もWANの一部」という認識が広まり、クラウドネイティブWANへの移行が加速
- 2022年〜現在:5G・エッジコンピューティングとの統合が進み、「クラウドネイティブWAN」という表現が業界で定着。大手通信キャリアもマネージドサービスとして提供開始
関連技術・アーキテクチャとの関係
クラウドネイティブWANは単独の製品ではなく、複数の技術が組み合わさったアーキテクチャです。主要な関連技術との位置づけを整理します。
SD-WANとの違い
SD-WANはクラウドネイティブWANの中核技術の一つですが、SD-WAN単体はあくまで「WAN回線の制御・最適化」に焦点を当てたものです。クラウドネイティブWANはそれに加えて、セキュリティのクラウド化・クラウドサービスへの直接接続最適化・運用の自動化まで含む、より広い概念です。
SASEとの関係
| 項目 | SD-WAN | SASE | クラウドネイティブWAN |
|---|---|---|---|
| 主な機能 | 経路制御・帯域最適化 | セキュリティ統合(ZTNA・FWaaS等) | 両者を統合した全体アーキテクチャ |
| 単独で使えるか | ○ | ○ | アーキテクチャ概念なので単体製品はない |
| クラウド依存度 | 中(コントローラのみクラウドのことも) | 高(基本クラウド前提) | 高 |
関連する規格・RFC
| 規格・RFC番号 | 内容 |
|---|---|
| RFC 8453 | SDN・WAN制御のためのアーキテクチャフレームワーク(ABNO)に関する文書 |
| RFC 7432 | BGP MPLS-Based Ethernet VPN(EVPN)。SD-WANのアンダーレイとして使われるVPNの規格 |
| RFC 8519 | YANG Data Model for Network Access Control Lists(ACL)。SD-WAN制御の自動化に関連 |
関連用語
- SD-WAN — ソフトウェアでWANを制御・最適化する技術。クラウドネイティブWANの中核
- SASE — ネットワークとセキュリティをクラウドで統合したアーキテクチャ
- MPLS — 従来型WANで主流だった高品質専用線技術。クラウドネイティブWANが代替を目指す対象
- ゼロトラスト — 「社内ネットワークも信用しない」セキュリティ設計思想。クラウドネイティブWANと密接に関係
- ZTNA — ゼロトラストに基づくリモートアクセス技術。SASEの構成要素の一つ
- エッジコンピューティング — 拠点やユーザー近くで処理を行う技術。クラウドネイティブWANの分散設計と親和性が高い
- 5G — 高速・低遅延モバイル通信。クラウドネイティブWANのアンダーレイ回線として活用が広がる
- クラウドネイティブ — クラウドの設計思想を前提としたシステム開発・運用アプローチ