リスク登録簿 りすくとうろくぼ
簡単に言うとこんな感じ!
「このプロジェクトで起きるかもしれない困りごと」を一覧にして、起きやすさ・起きたときの痛さ・打つ手・担当者を書いておく台帳だよ。天気予報を見て傘を用意するみたいに、起きる前に備えるための道具なんだ。
リスク登録簿とは
リスク登録簿(リスクレジスター、Risk Register) は、プロジェクトで見つけた リスク を一覧にし、それぞれの 発生確率・影響度・対応策・担当者・状況 を記録して管理する表です。ここでいうリスクとは「まだ起きていないが、起きると目標(品質・費用・納期)に影響する不確かなこと」を指します。リスク管理の国際規格 ISO 31000 では、リスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。
よく混同されるのが 課題(イシュー) です。課題は「すでに起きている問題」、リスクは「これから起きるかもしれない問題」です。たとえば「ベンダーの主担当が来月異動するかもしれない」はリスクで、実際に異動が決まれば課題になり、課題管理台帳 に移して対処します。
登録簿はキックオフのころに最初の版を作り、定例会議のたびに見直します。作って終わりにせず、新しいリスクを足し、消えたリスクを閉じ、点数を付け直す ことで、プロジェクトの「危なさ」の地図として働きます。
登録簿の項目と点数の付け方
| 項目 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| ID・登録日 | 管理番号と見つけた日 | R-07/2026-05-12 |
| リスクの内容 | 「〜のため、〜が起き、〜になる」の形で | 既存データの形式がばらばらなため、移行に時間がかかり、稼働日が遅れる |
| 発生確率 | 1〜5や高・中・低 | 4 |
| 影響度 | 費用・納期・品質への影響を1〜5で | 4 |
| スコア | 発生確率 × 影響度 | 16(高) |
| 対応策 | 予防策と、起きたときの手当て | 早めに試し移行を行う/稼働日を1週ずらす案を用意 |
| リスクオーナー | 見張って手を打つ担当者 | 情シス 田中 |
| きっかけ(予兆) | 起きそうだと判断する合図 | 試し移行でエラーが1割を超えたら |
| 状況 | 監視中・対応中・終了 | 監視中 |
スコアの高いリスクから手を打ち、低いものは「受け入れる」と決めて記録だけ残します。全部に同じ力をかけないのがコツです。
いい質問!ひとりで考えると漏れるから、キックオフで関係者に5分ずつ「心配なこと」を書いてもらう のがおすすめだよ。現場、経理、ベンダー、それぞれ見えている不安が違うんだ。
それと、ネタ帳になるのが 過去のプロジェクトの反省メモ。「データ移行で遅れた」「承認者が忙しくて確認が止まった」みたいな話は、どの会社でも繰り返されやすいよ。
うーん、それはちょっと心配なサインだね。リスクがゼロのプロジェクトなんてまずないんだ。「特にない」は、まだ考えていないか、言いにくいかのどちらかのことが多いよ。
「発注側に原因があるリスクも含めて、上位5つを教えてください」と聞き方を変えてみて。こちらの承認の遅れやデータ準備のことを言ってもらえると、すごく役に立つんだ。
対応の考え方(脅威への5つの戦略)
| 戦略 | 考え方 | システム発注での例 |
|---|---|---|
| 回避 | 原因そのものをなくす | 実績のない新技術の採用をやめる |
| 軽減 | 起きやすさや痛さを下げる | 早めに試し移行をする、テスト期間を長めにとる |
| 転嫁(移転) | 他者に負担を移す | 契約で責任範囲を決める、保険を使う |
| 受容 | 手を打たず、起きたら対処する | 影響の小さいリスク。予備の日数・予算を確保しておく |
| エスカレーション | 自分たちの権限を超えるので上に上げる | 全社の人事異動に関わるものを ステアリングコミッティ へ |
PMBOKでは、良いことが起きる可能性(機会)も同じ登録簿で管理し、「活用・強化・共有」などの戦略を取るとしています。
歴史と背景
- 1980〜90年代:大規模なプロジェクトの失敗をきっかけに、リスクを一覧にして管理する手法が広がります
- 1996年:PMIの PMBOKガイド が「プロジェクト・リスク・マネジメント」を知識エリアとして整理。のちの版でリスク登録簿が主要な成果物として扱われます
- 2009年:リスクマネジメントの国際規格 ISO 31000 と用語の指針 ISO Guide 73 が発行。Guide 73 ではリスク登録簿を「特定したリスクに関する情報の記録」と定義しています
- 2018年:ISO 31000 が改訂され、日本でも JIS Q 31000 として取り入れられています
- 現在:Excelのほか、課題管理ツールやプロジェクト管理ツールの機能として管理するチームも増えています
実務のポイント
- リスクを「〜のため、〜が起き、〜になる」の形で書き、原因と結果が分かるか
- すべてのリスクに リスクオーナー(担当者の名前)がいるか
- 発注側に原因があるリスク(承認の遅れ、データ準備、担当者の異動)も載せたか
- 定例会議で 上位5件 を毎回見直す決まりがあるか
- 「受容」としたリスクに備えて、予備の日数や予算を確保したか
- 起きたリスクを 課題管理台帳 に移し、エスカレーション の手順と結び付けたか
関連する規格・RFC
| 規格 | 内容 |
|---|---|
| ISO 31000:2018 / JIS Q 31000 | リスクマネジメントの原則と進め方を定めた国際規格と日本版 |
| ISO Guide 73:2009 | リスクマネジメントの用語。リスク登録簿の定義を含む |
| NIST SP 800-30 Rev.1 | 情報システムのリスクアセスメントの手引き(米国) |
参考文献・外部リンク
- Risk register(Wikipedia 英語版) — 定義と、PMBOK・PRINCE2での項目の例
- ISO 31000(Wikipedia 英語版) — 規格の成り立ちと2018年改訂の要点
- NIST SP 800-30 Rev.1 Guide for Conducting Risk Assessments — 発生可能性と影響から評価する手順
- PMI日本支部 — PMBOKガイド日本語版の案内
関連用語
- リスクマネジメント — 登録簿を使ってリスクを管理する活動全体
- 課題管理台帳 — すでに起きた問題を管理する台帳
- 課題管理(Issue管理) — 顕在化した問題を解決まで追いかける活動
- エスカレーション — 現場で判断できないことを上位へ上げる手順
- ステアリングコミッティ — 重大なリスクの判断を仰ぐ経営側の会議
- プロジェクト計画書 — リスク管理の進め方を書いておく計画
- PMBOK — リスク登録簿を主要な成果物とする知識体系
- レッスンズラーンド(教訓) — 次のリスク洗い出しのネタになる過去の学び