マルチアカウントネットワーク設計 まるちあかうんとねっとわーくせっけい
簡単に言うとこんな感じ!
クラウドを「部署ごとに別々の部屋(アカウント)」に分けて使う会社で、その部屋どうしをどうつなぐか・どう守るかを設計することだよ。大きなオフィスビルの「フロアレイアウトと内線電話の設計」みたいなイメージ!
マルチアカウントネットワーク設計とは
マルチアカウント構成とは、AWS・Azure・Google Cloudなどのクラウドを1つの会社が複数のアカウント(=テナント)に分割して利用する構成のことです。たとえば「開発環境用アカウント」「本番環境用アカウント」「セキュリティ監査用アカウント」のように、目的・部署・セキュリティ要件ごとにアカウントを分けることで、権限・コスト・障害の影響範囲を明確に分離できます。
マルチアカウントネットワーク設計とは、こうして分割された複数のアカウントを「どのネットワーク経路でつなぐか」「どのトラフィックを許可・遮断するか」「インターネット出口をどこに集約するか」を体系的に決める設計作業です。ガバナンス(統制)・セキュリティ・運用効率の三つを同時に満たすことが求められます。
大企業がクラウドを本格活用し始めると、アカウント数が数十〜数百に膨れ上がることも珍しくありません。その時点で「アカウントごとにバラバラにネットワークを作っていた」では管理が破綻します。マルチアカウントネットワーク設計は、クラウド移行・DX推進の基盤となるインフラ設計であり、後から変更するコストが非常に大きいため、初期段階での正しい設計が事業継続性に直結します。
マルチアカウント構成の基本構造
| 構成要素 | 役割 | 代表的なAWSサービス |
|---|---|---|
| 管理アカウント(Payer) | 全アカウントの請求・ポリシー管理 | AWS Organizations |
| ネットワークハブアカウント | VPC間通信・インターネット出口を集約 | Transit Gateway, AWS Network Firewall |
| セキュリティアカウント | ログ集約・脅威検知・監査 | AWS Security Hub, GuardDuty |
| 共有サービスアカウント | DNS・ディレクトリなど共通リソース提供 | Route 53 Resolver, AWS Directory Service |
| ワークロードアカウント | 実際のアプリ・DBなどを動かす | VPC, EC2, RDS など |
ハブ&スポーク モデルで覚える
ネットワーク構成の基本形は「ハブ&スポーク(Hub & Spoke)」です。自転車のタイヤをイメージしてください。中心のハブ(ネットワークアカウント)に全スポーク(ワークロードアカウント)を接続します。スポーク同士が直接話したい場合もハブを経由させることで、経路の見通しが良くなりセキュリティポリシーを一箇所で管理できます。
アカウント分割の主な軸
- 環境軸:本番 / ステージング / 開発 / 検証
- 組織軸:事業部 / プロジェクト / 製品ライン
- 機能軸:ネットワーク / セキュリティ / 共有サービス / ワークロード
- 規制軸:PCI DSS対象 / HIPAA対象 / 一般業務
歴史と背景
- 2012年頃:AWSが企業向け利用を本格化。当初は1アカウントで全リソースを管理するケースが多く、権限管理が混乱しやすかった
- 2016年:AWSがマルチアカウント戦略を公式推奨。「アカウント=セキュリティ境界」という考え方が広まる
- 2017年:AWS Organizations リリース。複数アカウントの階層管理・SCP(サービスコントロールポリシー)による一括制御が可能に
- 2019年:AWS Transit Gateway リリース。それまでVPC間接続に使っていたVPCピアリングをスター型に集約でき、マルチアカウントネットワーク設計が大幅に簡略化された
- 2020年:AWS Control Tower でランディングゾーン(後述)の自動構築が容易に。Azure Landing Zone・Google Cloud Landing Zoneも同時期に整備
- 2022年以降:金融・医療・公共機関のクラウド移行加速により、マルチアカウント設計はエンタープライズクラウド導入の必須要件として定着
主要コンポーネントと接続パターン
Transit Gateway(TGW)とVPCピアリングの違い
| 比較項目 | VPCピアリング | Transit Gateway |
|---|---|---|
| 接続形式 | 1対1(メッシュ) | 多対多(スター) |
| アカウント数が増えたとき | 接続数が爆発的に増加 | ハブ追加のみでOK |
| ルーティング集中管理 | ❌ 各VPCで設定が必要 | ✅ TGWルートテーブルで一元管理 |
| 帯域幅 | 無制限(同リージョン) | 最大50Gbps/アタッチメント |
| コスト | データ転送料のみ | アタッチメント料金+転送料 |
| 推奨規模 | 小規模・数VPC | 中〜大規模・マルチアカウント |
ランディングゾーン(Landing Zone)
ランディングゾーンとは、マルチアカウント環境を安全・標準的に構築するための「初期設定済みの土台」のことです。航空機が安全に着陸できる滑走路を整備しておく、というイメージです。AWSでは Control Tower、Azureでは Azure Landing Zone、GCPでは Google Cloud Foundation としてテンプレートが提供されています。
典型的なランディングゾーンが提供するもの:
- アカウント階層の自動構築(OU構成)
- SCPによるガードレール(禁止操作の強制)
- ログ集約設定(CloudTrail・Config)
- ネットワーク基本構成(TGW・共有VPC)
- SSO(シングルサインオン)との統合
IPアドレス設計:マルチアカウントで失敗しやすいポイント
マルチアカウント構成で最も後悔しやすいのが IPアドレス(CIDR)の重複です。VPCピアリングやTGWで接続するVPC同士はIPアドレスが重複していてはなりません。
【CIDR設計例:/8 を組織全体で確保して分割する】
10.0.0.0/8 ← 組織全体で確保
├── 10.0.0.0/12 本番環境帯
│ ├── 10.0.0.0/16 本番アカウントA(VPC)
│ ├── 10.1.0.0/16 本番アカウントB(VPC)
│ └── ...
├── 10.16.0.0/12 開発環境帯
│ ├── 10.16.0.0/16 開発アカウントA(VPC)
│ └── ...
├── 10.32.0.0/12 ステージング帯
└── 10.48.0.0/12 共有サービス帯
後からCIDRは変更できない(VPCの再作成が必要)ため、初期設計で余裕を持たせることが重要です。組織全体のアドレス計画を「IPAMツール(IP Address Management)」で管理することが推奨されます(AWS VPC IPAMなど)。
関連する規格・RFC
| 規格・RFC番号 | 内容 |
|---|---|
| RFC 1918 | プライベートIPアドレス空間の定義(10.x.x.x, 172.16.x.x, 192.168.x.x) |
| RFC 4632 | CIDR(クラスレスドメイン間ルーティング)の定義 |
| RFC 4271 | BGP-4(Transit Gatewayのクロスリージョン接続で利用) |
関連用語
- VPC(仮想プライベートクラウド) — クラウド上に作る仮想的な専用ネットワーク空間
- Transit Gateway — 複数VPC・アカウントをハブ経由で接続するAWSの中継ルーター
- AWS Organizations — 複数AWSアカウントを階層管理・ポリシー制御するサービス
- ランディングゾーン — マルチアカウント環境の標準化された初期構築テンプレート
- VPCピアリング — 2つのVPCを直接1対1で接続する仕組み
- CIDR — IPアドレスをブロック単位で柔軟に割り当てる表記・設計方式
- ゼロトラストネットワーク — 「社内=安全」を前提にしない現代的なセキュリティ設計思想
- クラウドガバナンス — クラウド利用のルール・統制・コスト管理の仕組み全般