電源・省電力

LDO

低損失の電圧レギュレータ。組み込みに広く使われる。

概要

LDO(Low Drop-Out Regulator、低ドロップアウトレギュレータ)は、入力電圧と出力電圧の差(ドロップアウト電圧)が小さくても動作できるリニア型の電圧レギュレータICである。入力電圧が出力電圧より数百mV高い条件でも安定した直流電圧を出力できる特性が名前の由来であり、電池駆動機器や低ノイズが求められるアナログ回路に広く使われる。

LDOの基本動作原理は、トランジスタ(主にPMOSまたはNPNトランジスタ)のゲート/ベース電圧を制御してドレイン/コレクタ電流を調整し、出力電圧を一定に保つフィードバック制御による。入力と出力の電位差はトランジスタで「熱」として消費されるため、効率は以下の式で表される。

効率 = (V_out × I_out) / (V_in × I_in) × 100%
     ≈ V_out / V_in × 100%  (I_out ≈ I_in の場合)

例えば5Vを3.3Vに変換する場合、効率は約66%となり、残りの34%は熱として散逸する。

LDOの主要パラメータ

パラメータ単位意味
ドロップアウト電圧(Vdo)mV〜V動作に必要な最小 Vin-Vout 差
出力電圧精度%温度・負荷による出力電圧変動
定格出力電流mA〜A最大出力電流
静止電流(Iq)µA〜mA無負荷時のLDO自身の消費電流
ノイズ(Output Noise)µV_rms出力電圧の雑音成分
PSRRdB入力ノイズ除去比
ライン調整率%/V or mV/V入力電圧変動に対する出力変動
ロード調整率%/A or mV/A負荷電流変動に対する出力変動

歴史・背景

リニアレギュレータの起源は1960〜1970年代に遡る。最初期の三端子レギュレータ(7805、7812など)はドロップアウト電圧が2V以上あり、電池電圧が低下してくると動作不能になるという問題があった。

1983年にNational Semiconductor(現TI)がLM2940という初期のLDOを発表し、600mVのドロップアウト電圧を実現した。これにより電池駆動機器での使い勝手が大幅に向上した。

その後、半導体プロセスの進化とともにドロップアウト電圧の低減と静止電流の削減が進み、1990〜2000年代には100mV以下のドロップアウト電圧、数十µA以下の静止電流を持つLDOが登場した。IoT機器向けには静止電流が1µA以下の超低消費LDOも実用化されており、例えばTIのTPS7A02は75nAという極めて低い静止電流を実現している。

技術仕様

ドロップアウト電圧の仕組み

標準的な三端子レギュレータ(NPN型)は、出力段のNPNトランジスタのコレクタ-エミッタ間電圧(Vce_sat ≈ 2V)が最低限必要なため、ドロップアウト電圧が大きかった。

LDOはPMOS型やPNP型のパストランジスタを使うことで、ドロップアウト電圧をほぼドレイン-ソース間抵抗(Rds_on)による電圧降下のみに低減できる。

V_dropout = I_out × Rds_on(PMOS LDOの場合の近似)

出力電流が大きいほどドロップアウト電圧も大きくなるため、大電流LDOではドロップアウト電圧を仕様書でよく確認する必要がある。

主要LDO ICの比較

品番メーカーVoutIout最大IqVdo特徴
TPS7A02TI0.8〜3.95V200mA75nA105mV超低静止電流
LP5907TI1.2〜5.0V250mA25µA100mV低ノイズ
MCP1700Microchip1.2〜5.0V250mA2µA178mV低コスト、低Iq
NCP161ON Semi1.0〜3.3V500mA60µA120mVPSRR高
SGM2205SG Micro3.3V固定300mA55µA300mVコスト重視
AMS1117AMS各種固定800mA5mA1.3V汎用、安価

設計における回路定数の計算

多くのLDOは外付け抵抗で出力電圧を設定できる(可変出力型)。

V_out = V_ref × (1 + R1/R2)

例: V_ref = 0.8V, V_out = 3.3V の場合
3.3 = 0.8 × (1 + R1/R2)
R1/R2 = 3.3/0.8 - 1 = 3.125
R2 = 100kΩ として R1 = 312.5kΩ(330kΩを使用)

安定動作のために出力コンデンサ(Cout)の選定も重要であり、データシートで指定される最小容量と等価直列抵抗(ESR)の範囲を守る必要がある。

// MCUファームウェアでの電源シーケンス例(GPIOでLDO Enable制御)
#define LDO_EN_PIN   GPIO_NUM_5

void power_on_sequence(void) {
    // LDO を有効化
    gpio_set_level(LDO_EN_PIN, 1);
    
    // LDOの出力安定待ち(起動時間はデータシートで確認)
    vTaskDelay(pdMS_TO_TICKS(5));  // 5ms待機
    
    // 外部センサーの初期化開始
    sensor_init();
}

void power_off_sequence(void) {
    // センサーの停止処理
    sensor_deinit();
    
    // LDO を無効化(外部センサーへの電源遮断)
    gpio_set_level(LDO_EN_PIN, 0);
}

動作原理

LDOの内部は以下の要素から構成される。

     Vin
      |
   [パストランジスタ(PMOS)]
      |
   ──+──── Vout
      |
   [R1]  ← フィードバック用分圧抵抗
      |
   [誤差増幅器] ← V_ref と比較
      |
   [R2]
      |
     GND

誤差増幅器(Error Amplifier): 出力電圧の分圧値と内部基準電圧(V_ref)を比較し、差分に応じてパストランジスタのゲート電圧を制御する。

パストランジスタ: 実際に電流を流す主要素子。PMOS型はNPN型より設計が容易でドロップアウト電圧が小さいため、現代のLDOでは主流となっている。

負帰還ループ: 出力電圧が低下すると誤差増幅器がトランジスタのゲート電圧を下げてより多くの電流を流し、電圧を回復させる。この負帰還により安定した出力電圧が維持される。

熱設計

LDOで消費される電力(熱)は以下のように計算される。

P_dissipated = (V_in - V_out) × I_out + V_in × Iq

例: V_in=5V, V_out=3.3V, I_out=500mA, Iq=100µA の場合
P = (5.0 - 3.3) × 0.5 + 5.0 × 0.0001
  = 1.7 × 0.5 + 0.0005
  = 0.8505W ≈ 850mW

この発熱量に応じて、パッケージの熱抵抗(θJA)から接合部温度(Tj)を計算し、最大定格(通常125℃)以下であることを確認する。

Tj = Ta + P_dissipated × θJA

例: Ta=25℃, θJA=100℃/W(SOT-223パッケージ)の場合
Tj = 25 + 0.85 × 100 = 110℃ → 125℃以下 → OK

用途・ユースケース

MCU電源

マイクロコントローラへの安定した電源供給が最も基本的な用途である。バッテリーや5Vアダプタから3.3V、1.8Vなどの動作電圧を生成する。

アナログ回路・センサー電源

ADC、オーディオ回路、RF回路など、ノイズに敏感なアナログ回路にはDC-DCコンバータのスイッチングノイズが影響するため、低ノイズのLDOが使われる。LP5907のような超低ノイズLDO(出力ノイズ:6.4µVrms典型)が高精度測定器や医療機器に採用される。

バッテリー駆動機器の終段電源

バッテリー駆動機器では、電池電圧が放電に伴って低下する。LDOはドロップアウト電圧まで電池電圧が低下しても安定した出力電圧を供給し続けるため、電池を最後まで有効活用できる。

電源シーケンス制御

複数の電源電圧が必要なシステムでは、EN(Enable)ピンを使ってLDOのオン/オフをシーケンス制御する。これにより突入電流の分散や、スリープ時の外部回路への電源遮断が実現できる。

実装・開発のポイント

1. バイパスコンデンサの配置

LDOの入出力コンデンサはLDOのすぐ近くに配置し、配線インダクタンスを最小化する。特に出力コンデンサのESRがLDOの安定動作に大きく影響するため、データシートで指定された値(通常0.1〜10Ω程度)の範囲内のコンデンサを選ぶ。

推奨配線:
Vin ─── 10µF + 100nF ─── LDO入力
LDO出力 ─── 10µF + 100nF ─── 負荷

注意: 電解コンデンサ単体は高周波でESRが増大するため、
     積層セラミックコンデンサ(MLCC)との並列使用が推奨される

2. 静止電流の最適化

バッテリー駆動機器では、LDOの静止電流(Iq)も電池寿命に影響する。スリープ時の消費電流がMCUのディープスリープ電流(数µA)程度の場合、LDOのIq(例えば100µA)が支配的になる問題がある。超低Iq LDO(TPS7A02: 75nA、MCP1700: 2µAなど)の選定が重要である。

3. ソフトスタート(スルーレート制限)

大容量の負荷に電源を投入する際、LDOの出力電圧が急峻に立ち上がると突入電流が発生する。ソフトスタート機能付きのLDOを選ぶか、ENピンをRCタイマーでゆっくりHIGHに引き上げる方法で突入電流を抑制できる。

4. LDOとDC-DCの使い分け

条件推奨電源
Vin-Vout差が小(< 1V)かつ低電流LDO
ノイズ感度が高いアナログ回路LDO(低ノイズ品)
Vin-Vout差が大、大電流(効率重視)DC-DCコンバータ
昇圧が必要DC-DCコンバータ(ブースト型)
電池の終端まで使いたいLDO(低ドロップアウト品)

他技術との比較

比較軸LDO三端子レギュレータ(78xx)DC-DCコンバータ
効率Vout/Vin × 100%同等80〜95%(高効率)
ドロップアウト電圧数十mV〜数百mV約2V関係なし
ノイズ低(スイッチングノイズなし)高(スイッチングノイズあり)
回路の複雑さ簡単(外付け部品少)最も簡単複雑(コイル、コンデンサ等)
コスト低〜中最低中〜高
発熱(Vin-Vout)×Iout同等
昇圧不可不可

LDOは回路シンプルさ、低ノイズ、低ドロップアウトというメリットを持ち、組み込みシステムの多くのアナログ・デジタル電源に使われる。一方、電圧差が大きく大電流が流れる用途では効率面でDC-DCコンバータが優れており、両者を適切に使い分けることが低消費電力設計の要点となる。

関連用語

参考リンク