概要
技適(技術基準適合証明・技術基準適合自己確認)とは、日本の電波法に基づき、無線通信機能を持つ機器が技術基準に適合していることを証明する制度である。日本国内で無線機器を使用・販売・頒布するためには技適マーク(〒マーク)の表示が義務付けられている。
技適には2種類の方式がある。
| 方式 | 名称 | 実施者 |
|---|---|---|
| 技術基準適合証明 | 第三者機関(登録証明機関)による証明 | MIC指定の登録証明機関 |
| 技術基準適合自己確認 | メーカー自身による適合確認 | 製造・販売業者 |
技適マークは以下のように表示される。
〒マーク(技術基準適合証明): 〒 + 証明番号
または
(技術基準適合自己確認): 登録番号
技適マークのない無線機器を日本国内で使用することは原則として電波法違反となり、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性がある。
歴史・背景
技術基準適合証明の制度は、1960年(昭和35年)の電波法改正により端末機器の技術基準が整備されたことに始まる。当初は郵政省(現・総務省)が審査を直接行っていたが、1985年(昭和60年)の電気通信事業法改正により、第三者認証機関制度が導入された。
1994年にはVTEL認証(端末機器技術基準適合認定)が廃止され、現行の技術基準適合証明制度に統合された。スマートフォンの普及に伴い、2010年代にはBluetooth・Wi-Fi等の多様な無線技術への対応が拡充された。
2019年(令和元年)の電波法改正では、IoT機器の普及を念頭に技術基準適合自己確認制度が拡充され、特定の条件を満たす機器についてメーカー自らが技適の適合確認を行えるようになった。また同年、外国人旅行者向けに海外製スマートフォンなどの一時的な使用を認める「技適未取得機器の特例制度」も創設された。
技術仕様
技適の対象となる無線設備
電波法第4条により、以下の無線設備は技適等が必要となる。
| 技術 | 周波数帯 | 主な規格 |
|---|---|---|
| Wi-Fi(IEEE 802.11) | 2.4GHz / 5GHz / 6GHz | 小電力データ通信システム |
| Bluetooth / BLE | 2.4GHz | 小電力データ通信システム |
| ZigBee | 2.4GHz | 小電力データ通信システム |
| Thread | 2.4GHz | 小電力データ通信システム |
| Z-Wave | 920MHz | 特定小電力無線局 |
| LoRa(LoRaWAN) | 920MHz | 特定小電力無線局 |
| LTE-M / NB-IoT | 700〜900MHz | 第4世代移動通信 |
| 5G | 3.7GHz / 4.5GHz / 28GHz | 第5世代移動通信 |
| Felica / NFC | 13.56MHz | 誘導式無線局 |
技適の認証フロー
[機器設計・試作完了]
↓
[試験機関への申請書類準備]
- 機器の仕様書
- 回路図・基板レイアウト
- ファームウェアバージョン固定
- アンテナ仕様
↓
[技術基準適合試験]
- 電波出力測定
- 不要電波(スプリアス)測定
- 占有周波数帯幅の測定
- 隣接チャネル漏洩電力の測定
↓
[証明書発行(4〜8週間)]
↓
[技適マーク表示]
- 機器本体への印刷 or ラベル貼付
- ソフトウェア表示(スマートフォン等)
↓
[量産・販売開始]
技適証明番号の構成
技術基準適合証明番号の例:
001-190102
001: 登録証明機関コード
001 = MIC(総務省直轄試験機関)
002 = TELEC(テレコムエンジニアリングセンター)
003 = JATE(日本情報通信機器試験センター)
など
190102: 証明番号(登録年月日ベース)
動作原理
技適試験の測定内容
技適試験では、電波法に基づく省令技術基準に適合しているかを測定する。
【Wi-Fi 2.4GHz帯の技術基準適合試験項目の例】
1. 占有周波数帯幅
- 規格値: 26MHz以下
- 測定: スペクトラムアナライザで全電力の99%を含む帯域を測定
2. 搬送波周波数の許容偏差
- 規格値: ±20ppm
- 測定: 周波数カウンタで搬送波周波数を測定
3. 空中線電力
- 規格値: 10mW/MHz以下(最大出力 250mW以下)
- 測定: パワーメータで平均電力を測定
4. 隣接チャネル漏洩電力
- 占有帯域外への電波漏れを測定
- 規格値: -45dBc以下
5. スプリアス発射強度
- 1GHz以下: -36dBm以下
- 1GHz以上: -30dBm以下
モジュール認証の活用
組み込み機器では、すでに技適を取得した無線モジュールを使用することで、機器全体の技適取得が簡略化できる場合がある。
モジュール認証(Module Certification)の考え方:
[無線モジュール単体で技適取得済み]
例: ESP32-WROOM-32E(Espressif)
技適番号: 005-180076
[モジュールを搭載した機器]
→ モジュールの技適を「そのまま使える」ケース:
- アンテナ(外付けアンテナなし)を変更しない
- 出力電力を変更しない
- ファームウェアで無線仕様を変更しない
→ 機器全体で新規技適が必要なケース:
- 外付けアンテナを追加・変更する
- 複数の無線技術を同時使用(インターフェア確認)
- 機器外形によって放射特性が変わる可能性がある
用途・ユースケース
IoT製品の技適取得
LoRaWAN対応の農業センサやBLE対応のスマートロックなど、IoT機器の量産販売には技適が必須である。
IoT機器の技適取得コスト・期間の目安:
モジュール認証活用(簡略型):
- 費用: 50〜150万円
- 期間: 4〜8週間
- 条件: 技適取得済みモジュールを仕様通り使用
独自アンテナ設計(フル型):
- 費用: 150〜300万円
- 期間: 8〜16週間
- 条件: 独自設計のアンテナ・無線回路を使用
複数無線規格の同時申請:
- Wi-Fi + BLE + LTE-M など複数を同時申請
- 規格ごとに費用が加算されるが、合算での割引あり
開発段階での技適特例利用
試作・開発段階では「技術基準適合証明等を受けていない機器の試験的利用」の特例制度を活用できる。
技適未取得機器の特例利用条件(令和元年改正後):
1. 利用目的: 実験・開発・研究に限定
2. 利用期間: 最大180日(申請日から)
3. 申請方法: 総務省電波利用ホームページから申請
4. 利用場所の制限: なし(一般的な使用場所で可)
5. 公示: 利用期間中は総務省のWebに情報が公開される
海外製モジュールの取り扱い
海外製のESP32やArduino用通信シールドなどは、日本の技適を取得していない場合がある。
確認方法:
1. モジュールの技適番号をデータシートで確認
2. 総務省「技術基準適合証明等を受けた機器の検索」で番号確認
URL: https://www.tele.soumu.go.jp/giteki/SearchServlet
技適未取得モジュールを日本国内で使用する場合:
- 学習目的(受信のみ): 電波法の適用外(受信は自由)
- 送信を伴う場合: 技適特例の申請が必要
- 販売目的で搭載: 必ず技適を取得してから販売
実装・開発のポイント
技適対応を見越したファームウェア設計
技適試験ではファームウェアのバージョンが固定されるため、以下の点に注意が必要である。
/* ファームウェアバージョン管理 */
#define FW_VERSION_MAJOR 1
#define FW_VERSION_MINOR 0
#define FW_VERSION_PATCH 0
#define FW_VERSION_STR "1.0.0-giteki" /* 技適申請版であることを明示 */
/* 技適対応版ファームウェアでの注意事項 */
/* NG: 技適後にアンテナゲインや出力パワーを動的に変更する */
void bad_example(void) {
wifi_set_tx_power(20); /* 技適試験時の値から変更 → 再申請必要 */
}
/* OK: 技適試験時の設定を固定値として使用 */
#define WIFI_TX_POWER_DBM 17 /* 技適試験時の値(変更不可) */
void good_example(void) {
wifi_set_tx_power(WIFI_TX_POWER_DBM);
}
/* 地域設定(海外版との共用コードの場合) */
typedef enum {
REGION_JP = 0, /* 日本(技適対応) */
REGION_US, /* 米国(FCC対応) */
REGION_EU, /* 欧州(CE対応) */
} RegionCode_t;
void configure_radio_for_region(RegionCode_t region) {
switch (region) {
case REGION_JP:
/* 日本向け設定: 技適取得済みパラメータ */
wifi_set_country("JP");
wifi_set_max_tx_power(17); /* 技適申請値 */
break;
case REGION_US:
wifi_set_country("US");
wifi_set_max_tx_power(20);
break;
}
}
技適番号の機器への表示方法
技適マーク表示方法(電波法施行規則):
1. 機器本体への刻印・印刷
- 最小文字高さ: 3mm以上
- 視認できる位置に表示
2. 電子的表示(スマートフォン・タブレット等)
- 設定メニュー内に表示
- 操作回数: 3ステップ以内でアクセス可能
3. ラベル貼付
- 機器底面・背面への貼付が一般的
- はがれにくい素材を使用
表示例:
┌──────────────────┐
│ 〒 003-190102 │
│ R 003-190102 │ ← R: 技術基準適合自己確認
└──────────────────┘
他技術との比較
| 認証 | 技適 | FCC | CE |
|---|---|---|---|
| 対象地域 | 日本 | 米国 | 欧州(EU/EEA) |
| 根拠法令 | 電波法 | Communications Act | Radio Equipment Directive |
| 認証機関 | TELEC・JATEなど | FCC指定試験機関 | EU指定機関 |
| マーク | 〒 | FCC ID | CE |
| 費用(目安) | 50〜300万円 | 30〜200万円 | 50〜250万円 |
| 期間(目安) | 4〜16週間 | 4〜12週間 | 4〜12週間 |
| 有効期限 | なし(設計変更時再申請) | なし(同左) | なし(同左) |
技適は日本固有の認証制度であり、FCC/CEとは独立して取得する必要がある。グローバル展開する製品では、技適・FCC・CEを同時進行で取得することでリードタイムを短縮できる。またEMC試験は技適・FCC・CEのいずれにも関連する共通の技術評価であるため、EMCの事前対策を設計段階から実施することが、各認証の円滑な取得につながる。