フォトブックアプリ、ゼロから売れるまで

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UI/UXの設計―「簡単そう」が一番難しい

「簡単でしょ」という思い込み

デザイナーに最初のブリーフィングをしたとき、こう言ってしまった。

「写真を選んで、レイアウトを決めて、注文するだけなので、シンプルにお願いします」

デザイナーの眉がピクリと動いた。

「……どのくらいのステップ数を想定してますか?」

考えたことがなかった。

ステップ数って、そんなに重要なの?

BtoCのモバイルアプリでは、ステップが1つ増えるたびにユーザーが離脱するんだよ。

一般的に、購入フローのステップが1つ増えると離脱率は10〜20%上がると言われている。

「写真選択→レイアウト→確認→住所入力→支払い→完了」の6ステップがあれば、最初に100人いたユーザーが最後まで到達する人数は、劇的に少なくなるよ。

「簡単そう」に見えることが、実は最も難しい設計課題なんだよね。


悪いUXと良いUXの具体例

デザイナーと一緒に、競合アプリの「悪い体験」を洗い出した。

写真選択画面

悪い例: アルバムを選ぶ→写真一覧が開く→1枚ずつタップして選ぶ→「追加」ボタンを押す→次へ

良い例: アプリを開くと自動で最近の写真が表示される→長押しで複数選択→そのまま次へ

ステップ数は同じでも、「操作している感覚」が全然違う。

エラーメッセージ

悪い例: 「エラーが発生しました(コード:0x0042)」

良い例: 「写真のアップロードに失敗しました。Wi-Fiに接続して、もう一度お試しください」

エラーメッセージの文言って、そんなに重要なの?

UXは「画面のデザイン」だけじゃないんだよ。言葉も体験の一部だから。

エラーが出たとき、ユーザーは不安になっている。そこに「エラーコード」だけ出されても何もできない。「何が起きたか」「どうすれば解決するか」を人の言葉で伝えることが、不安を安心に変えるんだ。

BtoCでは、ユーザーは説明書を読まない。画面に書いてあることだけで、すべてを判断するよ。だからすべてのテキスト、すべてのボタンのラベル、すべての通知文言が「UX」なんだよね。


モバイルUXの基本原則

実際の設計で意識した、モバイルUXの原則をまとめた。

親指で届く範囲にボタンを置く

スマホは基本的に片手で使う。画面の上の方にある重要なボタンは、押しにくい。「次へ」「購入する」などの主要アクションは、画面下部に固定する。

タップ領域は最低44px

指の腹でタップするため、小さいボタンは押し間違いが多発する。Apple・Googleともに最低44pxを推奨している。「見た目のサイズ」より「タップできる範囲」を広く取る。

入力は最小限に

住所入力で郵便番号を入れたら自動補完する。名前を毎回入力させない(保存・ログイン活用)。支払い情報は一度入れたら記憶する。

郵便番号の自動補完って、当たり前じゃない?

当たり前なんだけど、意外と実装されていないアプリが多いんだよね。

そして「当たり前のことが当たり前にできている」アプリが、ユーザーから「使いやすい」と評価されるんだ。

UXの改善は派手な新機能じゃないよ。「当たり前の体験を、当たり前に届ける」地道な積み重ねが、離脱率を下げて購入率を上げる。


オンボーディングの設計

アプリを初めて開いたユーザーに、最初に何を見せるか。これがオンボーディングだ。

初回体験で「なるほど、こういうアプリか」「使えそう」と思ってもらわないと、そのまま削除される。

今回設計したオンボーディング

  1. 起動画面:「大切な写真を、感動のカタチに」(価値提案を一言で)
  2. 写真アクセスの許可:「あなたの写真からフォトブックを作ります」(なぜ必要か説明)
  3. サンプルを見せる:完成したフォトブックのイメージ写真3枚
  4. 「さっそく作ってみる」ボタン

会員登録は最初に求めない

会員登録を最初にしないと、後で困らない?

会員登録を最初に求めると、離脱率が劇的に上がるんだよ。

ユーザーはまだサービスの価値を体験していない状態で「個人情報を入力してください」と言われる。「怪しい」「面倒」と感じて、多くの人がそのまま離脱しちゃうから。

正しい順番は「価値を体験させてから、登録を求める」だよ。

フォトブックをある程度作ってもらった後で「保存するためにアカウントを作ってください」と求めると、ユーザーはすでに時間を投資しているから、登録する動機がある。この順番の違いだけで、登録完了率が2〜3倍変わることもあるんだよね。


プロトタイプでユーザーテスト

画面設計ができたら、すぐ実装せずにプロトタイプを作ってユーザーに触ってもらった。

FigmaでクリッカブルなUIモックアップを作り、ターゲットユーザー5人に操作してもらう。「思ったことを声に出しながら操作してください」とお願いして、詰まった場所を記録する。

3人が同じ場所で詰まったら、そこは設計ミスだ。

「写真を複数選択できることに気づかなかった」「このボタンが注文ボタンだとわからなかった」——こういう発見が、実装前に取れるのがプロトタイプテストの価値。

実装してから直せばよくない?

実装してから直すと、コストが10倍になるんだよ。

設計段階で直すコストが1なら、実装後は10、リリース後は100と言われる(「バグの発見が遅いほど修正コストが高い」の法則)。

プロトタイプテストに使った時間は1週間。でもその1週間で防げた手戻りは、数週間分の開発工数だったんだ。

「作る前に確かめる」がBtoCプロダクト開発の基本姿勢だよ。


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