フォトブックアプリ、ゼロから売れるまで
第2話
誰に売るのか―ペルソナとターゲット設計
「全員に使ってほしい」という罠
最初の企画書に、こう書いた。
「家族写真をお持ちの、スマートフォンをお使いのすべての方が対象です」
部長に見せたら「いいね」と言ってもらえた。でも、ロボに見せたら一言。
「これ、誰にも刺さらないよ」
「全員向け」のメッセージは、誰の心にも届かないんだよ。
たとえば「みんなに美味しいラーメン」と「子育て中のお母さんが一人でもゆっくり食べられるラーメン屋」、どちらが記憶に残る?
ターゲットを絞ると「この人たちには届かなくなる」と怖くなるけど、実際は逆だよ。絞った方がメッセージが鮮明になって、刺さる人には深く刺さる。最初から全員を取りに行くと、誰にも届かないまま予算が尽きちゃうんだよね。
ターゲットを絞り込む
競合調査と社内ヒアリングを重ねて、候補を3つ絞った。
| セグメント | 特徴 | 市場規模 | 自社の強み |
|---|---|---|---|
| 子どもの成長記録を残したい30代ママ | 写真が多い・感情的な価値重視 | 大きい | 品質・納期 |
| 結婚式の思い出を残したいカップル | 高単価・こだわり強い | 中 | 高品質印刷 |
| ペットの写真をまとめたい20〜40代 | 熱狂的なファン層・SNS活用 | 小〜中 | 速さ |
迷ったら「自社が一番勝てる戦場」を選ぶといいよ。
判断軸は3つ。市場の大きさ、競合の弱さ、自社の強みとの一致。
30代ママ層は市場が大きく、既存サービスは「デザインが難しい」「時間がかかる」という不満が多かった。一方、うちの印刷会社の強みは品質と納期の安定感だよね。
「手間なく、プロ品質のフォトブックを、子どもの記念日に間に合わせたい30代ママ」を狙うことに決めたんだ。
ペルソナを作る
ターゲットが決まったら、「架空の具体的な一人」=ペルソナを作る。
ペルソナ:田中さおり(32歳)
- 子ども2人(3歳・1歳)の育児中。育休から復職して半年
- スマホには2,000枚以上の子ども写真がある
- 毎年アルバムを作りたいと思っているが、時間がなくて後回しに
- 子どもの誕生日に合わせて祖父母に贈りたい
- 操作が難しいアプリは使い続けられない。「パッとできる」が絶対条件
- 価格は3,000〜5,000円なら出せる
ペルソナを作る一番の効果は「チームの会話が変わる」ことだよ。
「ユーザーはどう思う?」と聞くと、人によって違う答えが返ってくる。でも「さおりさんはどう思う?」と聞くと、全員が同じ人を思い浮かべて議論できるんだ。
デザイン・コピー・機能の優先順位決め・価格設定、すべての判断が「さおりさんに刺さるか」という一軸で測れるようになるから、便利だよ。
ジョブ理論で「本当のニーズ」を掘る
ペルソナが決まったところで、「さおりさんがフォトブックに求めていること」をもっと深掘りしてみた。
使うのはジョブ理論という考え方。「人はプロダクトを買うのではなく、自分の”ジョブ(片付けたいこと)“のためにプロダクトを雇う」という考え方だ。
さおりさんの「ジョブ」は何か?
- 「フォトブックを作りたい」→ 表面的なジョブ
- 「子どもの成長を記録したい」→ 機能的なジョブ
- 「この一瞬を永遠に残したい」「祖父母に感謝を伝えたい」→ 感情的なジョブ
- 「こんなにちゃんと子育てしてる自分」→ 社会的なジョブ
「フォトブックを作りたい」止まりだと、競合と同じ土俵で戦うことになるんだよね。
感情的・社会的ジョブまで掘ると、プロダクトの設計が変わってくるよ。
たとえば「この一瞬を永遠に残したい」がジョブなら、完成したフォトブックを開いたときの「感動の瞬間」を最大化することがプロダクトの仕事になる。梱包・フォント・用紙の質感まで、すべてそのジョブに奉仕するものになるんだ。
次の話でもっと深掘りするけど、「ユーザーは印刷クオリティじゃなく感動を買っている」という発見がここから始まるよ。