概要
UWB(Ultra-Wideband:超広帯域無線)は、500 MHz 以上の広帯域(または中心周波数の 20% 以上) の周波数帯域を使って通信・測距を行う無線技術である。通常の無線通信がキャリア周波数に狭い帯域でデータを乗せるのに対し、UWB は極めて短い(ナノ秒〜ピコ秒オーダー)パルスを送受信することでセンチメートル級の測距精度を実現する。
UWB の主な用途は RTLS(Real-Time Location System:リアルタイム位置測位システム) であり、精密な距離・位置情報を必要とするシーンで活用される。Apple AirTag、Samsung Galaxy スマートフォン、iPhone 11 以降に搭載されたことで一般消費者にも広く知られるようになった。
主な特徴:
- 測距精度 — ±10cm 程度(条件によっては数 cm 以下)
- マルチパス耐性 — パルス幅が短いため、反射波との識別が容易
- 低消費電力 — 微弱パルス送信のため平均電力が低い
- 共存性 — 広帯域だが電力密度が極めて低いため既存の無線システムに影響しにくい
- セキュリティ — ToA/TDoA の物理特性上、位置情報の詐称(スプーフィング)が困難
歴史・背景
UWB 技術の起源は 1960 年代の軍事レーダー研究にさかのぼる。2002 年に米国 FCC(連邦通信委員会)が UWB の民間利用を許可(3.1〜10.6 GHz 帯)したことで商用化が加速した。
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 2002 | FCC が UWB 民間利用を許認可(3.1〜10.6 GHz) |
| 2007 | IEEE 802.15.4a 策定(UWB の測距プロファイル追加) |
| 2019 | Apple が iPhone 11 に U1 チップ(UWB)搭載 |
| 2019 | FiRa Consortium 設立(Samsung、NXP、Bosch 等) |
| 2020 | Samsung Galaxy Note 20 Ultra に UWB 搭載 |
| 2021 | NXP SR150 チップ(CCC デジタルキー対応) |
| 2021 | IEEE 802.15.4z 策定(HRP・LRP UWB 強化) |
| 2021 | Apple AirTag 発売(UWB で精密追跡) |
| 2022 | CCC(Car Connectivity Consortium)デジタルキー UWB 対応 |
| 2023 | Qorvo DW3000 シリーズ量産 |
技術仕様
周波数帯域
日本では総務省の技術基準(省令 第 49 号)に基づき、以下の周波数帯での使用が認められている(2024年現在)。
| チャネル | 中心周波数 | 帯域幅 |
|---|---|---|
| Ch.5 | 6.489600 GHz | 499.2 MHz |
| Ch.6 | 6.988800 GHz | 499.2 MHz |
| Ch.9 | 7.987200 GHz | 499.2 MHz |
測距方式
ToA(Time of Arrival): 電波の到達時間から距離を算出。光速(約 30cm/ns)を使うため、ナノ秒の精度が距離の精度に直結する。
距離 = (到達時間 × 光速) / 2
例: 3.33 ns → 1m
TDoA(Time Difference of Arrival): 複数のアンカーへの到達時間差から位置を算出する三角測量。
DS-TWR(Double-Sided Two-Way Ranging): 送受信を2往復して往復時間(RTT)を計測し、クロック誤差を相殺する。IEEE 802.15.4z の標準測距方式。
Tag ──[Tx 時刻 T1]──▶ Anchor
Tag ◀─[Rx 時刻 T2]── Anchor(応答送信)
Tag ──[Tx 時刻 T3]──▶ Anchor
TOF(Time of Flight)= ((T2 - T1) - (T3 - T2)) / 2
距離 = TOF × 光速
IEEE 802.15.4z の主要パラメータ
| パラメータ | HRP-ERDEV(高レート) | LRP(低レート) |
|---|---|---|
| パルスレート | 499.2 Mchips/s | 62.4 Mchips/s |
| データレート | 0.85 / 6.8 Mbps | 0.11 / 0.85 Mbps |
| 測距精度 | ±10 cm | ±10 cm |
| 通信距離 | 〜200m(見通し) | 〜200m |
| 消費電流(Tx) | 〜100 mA(ピーク) | 〜30 mA(ピーク) |
動作原理
パルス無線(IR-UWB)の仕組み
UWB は Impulse Radio とも呼ばれ、非常に短いパルス(ガウシアンモノサイクルなど)を送信する。
振幅
│ ╭─╮
│ ╯ ╰─╮
│─────────────────────────▶ 時間(〜2 ns)
│ ╰─╯
周波数ドメイン: 3.1〜10.6 GHz の広帯域にエネルギーが分散
→ 電力密度が -41.3 dBm/MHz と非常に低い(雑音レベルに近い)
CIR(Channel Impulse Response)の活用
UWB 受信機はチャネルインパルス応答(CIR)を計測できる。マルチパス環境では直接波と反射波が分離して見えるため、最初に届くパルス(LOS:Line of Sight)を識別して精度の高い測距ができる。
受信強度
│ ▮ ← 直接波(LOS)
│ ▮▮ ← 反射波(NLOS)
│─────────────▶ 時間(ns)
Secure Ranging(セキュア測距)
IEEE 802.15.4z では STS(Scrambled Timestamp Sequence) を導入し、パケットのタイムスタンプ部分を暗号化することでリプレイ攻撃や位置偽装を防ぐ。FiRa UWB や CCC デジタルキーはこの機能を使い、不正なキー解錠を防止している。
用途・ユースケース
精密資産追跡(RTLS)
倉庫・工場・病院での資産・人員追跡システムに UWB アンカーを複数設置し、タグを持つ人や物の位置をリアルタイムで把握するシステムが普及している。
[UWB タグ(作業者装着)]
↓ UWB パルス
[アンカー1] [アンカー2] [アンカー3]
↓ TDoA 計算
[位置管理サーバー] → 地図上に表示
スマートフォンのデジタルキー
CCC(Car Connectivity Consortium)の Digital Key 3.0 規格では UWB を使って車への接近方向と距離を cm 精度で測定し、ポケットの中のスマートフォンでドアのロック/アンロックとエンジン始動を実現する。BMW、Hyundai、Land Rover 等が採用している。
Apple AirTag / Find My
Apple AirTag は UWB U1 チップを搭載し、iPhone の「精密な場所を検索」機能により、AirTag が近くにある場合に方向と距離を画面上の矢印で案内する。
産業用ロボット協調動作
ロボットアームや AGV(無人搬送車)同士が正確な相対位置を把握することで、安全な協調動作や衝突回避を実現する。UWB の測距はカメラや LiDAR と比べて 照明条件に依存しない利点がある。
ESP32 + DW3000 による UWB 実装
ESP32 に Qorvo DW3000(UWB チップ)を SPI 接続して測距システムを自作できる。
// DW3000 SPI 初期化(Arduino 風の擬似コード)
#include "dw3000.h"
void setup() {
SPI.begin();
dwt_initialise(DWT_DW_INIT);
dwt_configure(&config); // チャネル、PRF、プリアンブル長 等の設定
// DS-TWR イニシエータとして設定
dwt_setrxantennadelay(RX_ANT_DLY);
dwt_settxantennadelay(TX_ANT_DLY);
}
void loop() {
// ポーリングメッセージ送信
dwt_writetxdata(sizeof(tx_poll_msg), tx_poll_msg, 0);
dwt_writetxfctrl(sizeof(tx_poll_msg), 0, 1);
dwt_starttx(DWT_START_TX_IMMEDIATE | DWT_RESPONSE_EXPECTED);
// 応答待ちと TOF 計算
// ...
double distance = (double)tof * DWT_TIME_UNITS * SPEED_OF_LIGHT;
Serial.printf("Distance: %.2f m\n", distance);
}
実装・開発のポイント
アンテナ設計
UWB の性能はアンテナ設計に大きく依存する。PCB アンテナ設計では以下の点が重要である。
- 広帯域対応 — 3〜10 GHz をカバーする広帯域アンテナ(ボウタイアンテナ、モノポールアンテナなど)
- インピーダンス整合 — 50Ω 整合を広帯域にわたって維持
- 放射パターン — 全方向性(測距精度に影響)
- グランドプレーン — 十分なグランドプレーンが必要
推奨 PCB レイアウト:
┌─────────────────────────────┐
│ [UWB アンテナ領域] │ ← 下層グランドを除去
│ ∫∫∫∫∫∫(マッチング回路) │
│ [DW3000 チップ] │
│ [SPI/IRQ 配線] │
│ [電源デカップリング] │
└─────────────────────────────┘
キャリブレーション(校正)
測距精度を最大化するために、各デバイスのアンテナ遅延を個別にキャリブレーションする必要がある。
// アンテナ遅延のキャリブレーション値設定
#define TX_ANT_DLY 16385 // 既知距離で実測して調整
#define RX_ANT_DLY 16385
dwt_settxantennadelay(TX_ANT_DLY);
dwt_setrxantennadelay(RX_ANT_DLY);
NLOS(非見通し)環境への対応
壁や障害物がある NLOS 環境では測距誤差が増大する。CIR 解析や機械学習によるバイアス補正が研究・実用化されている。
# CIR データから LOS/NLOS を分類(機械学習の例)
import numpy as np
from sklearn.ensemble import RandomForestClassifier
# 特徴量: CIR のピーク比、立ち上がり時間、リードエッジ勾配等
features = extract_cir_features(cir_data)
model = RandomForestClassifier()
model.fit(X_train, y_train) # y: LOS=0, NLOS=1
他技術との比較
| 項目 | UWB | BLE AoA/AoD | Wi-Fi RTT | GPS/GNSS | RFID |
|---|---|---|---|---|---|
| 測距精度 | ±10 cm | ±30〜50 cm | ±1〜3 m | ±3〜5 m(RTK で cm級) | 識別のみ |
| 屋内測位 | 対応 | 対応 | 対応(精度低め) | 非対応 | 非対応 |
| 通信距離 | 〜200 m | 〜10〜30 m | 〜100 m | 衛星直視が必要 | 数 cm〜数 m |
| 消費電力 | 中 | 低〜中 | 高 | 中〜高 | 極低(パッシブ) |
| セキュア測距 | 対応(STS) | 非対応 | 非対応 | 非対応 | 非対応 |
| 部品コスト | 中〜高 | 低 | 低(Wi-Fi 流用) | 低〜中 | 低 |
| 標準規格 | IEEE 802.15.4z | Bluetooth 5.1 | IEEE 802.11mc | ITU-R | ISO 18000 等 |
UWB は測距精度と NLOS 耐性において他の近距離無線技術を大きく上回る。ただし部品コストが BLE より高く、チップ選択肢も限られるため、精度よりもコストが優先される用途では BLE AoA やWi-Fi RTT が選ばれる場面も多い。屋外・長距離では GNSS/GPS が依然として有利であり、UWB は屋内・近距離の精密測位に特化した技術として位置づけられる。