新興・応用セキュリティ

車載セキュリティ しゃさいせきゅりてぃ

自動車サイバーセキュリティCAN バスOBD-IIECUV2XWP.29
車載セキュリティって何?

簡単に言うとこんな感じ!

現代の車はコンピューターの塊で、ハッカーに乗っ取られたり遠隔操作されたりするリスクがあるんだ。車載セキュリティとは、そういった「自動車へのサイバー攻撃」を防ぐための技術・ルール・仕組みの総称だよ!


車載セキュリティとは

現代の自動車には、ECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット) と呼ばれる小型コンピューターが数十〜100個以上搭載されており、エンジン・ブレーキ・ステアリングといった安全に直結する機能を制御しています。これらはかつては物理的に独立していましたが、今日ではネットワークでつながれ、さらに外部インターネットやスマートフォンとも連携するようになりました。

こうした「コネクテッドカー(connected car)」の普及に伴い、悪意ある第三者がネットワーク経由で車を不正操作したり、個人情報を盗んだりするリスクが現実のものとなっています。2015年には研究者が走行中のジープ・チェロキーをリモートから乗っ取ることに成功し、メーカーが140万台をリコールするという世界的な衝撃を与えた事件が起きました。

車載セキュリティとは、このような脅威に対抗するため、車両内部のネットワーク保護・外部通信の暗号化・ソフトウェアの安全な更新(OTA)・インシデント検知と対応など、自動車のライフサイクル全体にわたるサイバーセキュリティ対策を指します。IT セキュリティの知識が自動車業界と融合した、比較的新しい領域です。


車両内のネットワーク構造と攻撃面

自動車には複数の内部ネットワークが存在し、それぞれが異なる役割と脅威リスクを持っています。

ネットワーク主な用途代表的なリスク
CAN バスエンジン・ブレーキ・トランスミッション制御認証なしのメッセージ偽造、ECUハイジャック
LIN バスドアロック・シート・ライト制御低コスト設計ゆえのセキュリティ薄さ
FlexRayADAS(先進運転支援)・シャーシ制御高速通信への中間者攻撃
Ethernet(車載)インフォテインメント・カメラ系IP 系攻撃(なりすまし・盗聴)
OBD-II ポート診断・整備用の外部接続口物理接続でのCANへの直接攻撃

外部からの攻撃経路

 インターネット ─── テレマティクス(SIM搭載通信モジュール)
 スマートフォン ─── Bluetooth / Wi-Fi
 充電スタンド  ─── EV 充電インターフェース
 整備工場     ─── OBD-II ポート(有線)
 周辺車・インフラ ─ V2X(Vehicle-to-Everything)通信

これらすべてが「攻撃者が車に侵入するための入り口(アタックサーフェス)」になり得ます。

覚え方:「外からも中からも守る」

車載セキュリティは 「城壁(外部通信の防御)+城内の番人(内部ネットワークの監視)」 のイメージで考えると理解しやすいです。外の壁だけ固めても、城内の廊下(CAN バス)で誰でも自由に動き回れては意味がありません。


歴史と背景

  • 2000年代前半 — 車にコンピューターが普及し始めるが、外部接続がほぼなくサイバー攻撃はほぼ想定外
  • 2010年 — 米ワシントン大学・カリフォルニア大学の研究者がCANバスへの攻撃実証を論文発表。業界に衝撃
  • 2015年 — セキュリティ研究者がWi-Fi経由でジープ・チェロキーのブレーキ・ステアリングをリモート操作することに成功。クライスラーが約140万台をリコール
  • 2016年 — ISOとSAEが車載セキュリティの標準化作業を開始
  • 2020年 — 国連欧州経済委員会(UNECE)が WP.29(自動車基準調和世界フォーラム) のもと、サイバーセキュリティ規則(UN-R155)とソフトウェア更新規則(UN-R156)を採択
  • 2021年ISO/SAE 21434(道路車両サイバーセキュリティエンジニアリング)が正式発行
  • 2022年以降 — 日本・EU・韓国など主要市場でUN-R155/R156の適用が新型車に義務化開始。OEM(完成車メーカー)だけでなく部品サプライヤーにも対応が求められる

主要な規格・フレームワークの全体像

車載セキュリティの規格・フレームワーク全体像 国連 UNECE WP.29(法規制レイヤー) UN-R155:サイバーセキュリティ UN-R156:ソフトウェア更新(OTA) 技術標準レイヤー ISO/SAE 21434:開発プロセス全般 ISO 24089:ソフトウェア更新管理 実装・技術レイヤー TARA(脅威分析) SecOC(通信認証) HSM(ハード暗号) IDPS(侵入検知) 組織・運用レイヤー CSMS(サイバーセキュリティ管理体制) SUMS(ソフトウェア更新管理体制) 法規制 → 技術標準 → 実装技術 → 組織体制 の4層構造

UN-R155 と CSMS の関係

UN-R155 は、車両の型式認証(販売許可)を得るために、メーカーが CSMS(Cyber Security Management System:サイバーセキュリティ管理体制) を整備・運用していることを証明しなければならないと定めています。これはISO 27001のような情報セキュリティ管理体制の「自動車版」と考えると分かりやすいです。

ISO/SAE 21434 の要点:TARA

TARA(Threat Analysis and Risk Assessment:脅威分析とリスク評価) は、ISO/SAE 21434 が要求する中心的な作業です。

ステップ内容
アセット特定保護すべき機能・データを洗い出す
脅威シナリオ特定攻撃者がどう悪用するかを列挙
影響分析安全・財務・プライバシーへの被害を評価
攻撃可能性評価攻撃の難易度を測る
リスク決定影響×可能性でリスクレベルを決定
対策設計リスクを下げる技術・運用対策を設計

関連する規格・RFC

規格番号内容
ISO/SAE 21434:2021道路車両サイバーセキュリティエンジニアリング。開発・生産・運用・廃棄の全ライフサイクルをカバー
UNECE WP.29 UN-R155車両型式認証に必要なCSMS要件を規定。EU・日本・韓国などで義務化
UNECE WP.29 UN-R156OTA(無線ソフトウェア更新)に必要なSUMS要件を規定
ISO 24089:2023ソフトウェア更新エンジニアリング(UN-R156の技術的実装ガイド)
IEEE 802.1AE (MACsec)車載Ethernetでも採用される、レイヤー2レベルの暗号化規格

関連用語