Zig じぐ
Zigとは
Zigは2016年にAndrew Kelleyが開発を始めたシステムプログラミング言語です。C言語やC++が担ってきた「OSのカーネル」「デバイスドライバ」「ゲームエンジン」といったハードウェアに近い低レベルな領域を、より安全かつシンプルに書けることを目標に設計されました。言語仕様が意図的に小さく保たれており、「隠れた制御フローを持たない」という哲学がコードの読みやすさと予測可能性を高めています。
特筆すべきはCのコードをZigから直接呼び出せる(逆も可能)という相互運用性の高さです。既存のC資産を活かしながら、少しずつZigに移行できるため、「C言語を置き換える現実的な候補」として開発者コミュニティで急速に注目を集めています。また、Zigはプログラミング言語であると同時にビルドシステム・クロスコンパイラとしても機能する点がユニークで、zig cc というコマンド一つでCプロジェクトのクロスコンパイルも行えます。
Zigの核心的な概念・構造・仕組み
Zigを特徴づける設計思想
| 特徴 | 内容 | C言語との比較 |
|---|---|---|
| 隠れた制御フローなし | 演算子オーバーロード・例外・デストラクタが存在しない | Cにもないが、C++にはある |
| 隠れたメモリ確保なし | アロケータを明示的に渡す設計 | Cでも明示的だが慣習がバラバラ |
| null安全 | ポインタはデフォルトでnullを許可しない(?をつければOptional型) | Cはnullチェックが任意 |
| コンパイル時計算(comptime) | 型・定数・ロジックをコンパイル時に評価できる | Cのマクロより安全で強力 |
| エラーハンドリング | エラーユニオン型(!)で戻り値にエラーを付与 | Cは戻り値の慣習がバラバラ |
| クロスコンパイル | 単一バイナリで多くのターゲットにコンパイル可能 | 別途ツールチェーンが必要 |
メモリ管理の仕組み:アロケータパターン
Zigではメモリ確保をする関数にアロケータを引数として渡します。「誰がどのようにメモリを管理するか」が常に明示されるため、ヒープ確保が「見えないところで起きる」ことがありません。
// アロケータを明示的に渡す例(擬似コード)
const allocator = std.heap.page_allocator;
const list = try std.ArrayList(u8).init(allocator);
defer list.deinit(); // deferでスコープ終了時に確実に解放
deferキーワードはスコープを抜けるときに必ず実行される文を宣言するもので、リソースの解放忘れを防ぐ実用的な仕組みです。
comptimeとは
comptime(コンパイル時計算) はZigの最も革新的な機能の一つです。型をパラメータとして渡したり、条件によって生成するコードを変えたりする「ジェネリクス」や「テンプレート」の機能を、特別な構文を増やさずに実現します。
// comptime で型を引数に取る汎用関数
fn max(comptime T: type, a: T, b: T) T {
return if (a > b) a else b;
}
歴史と背景
- 2015年 — Andrew Kelleyがシステムプログラミング言語の新設計を構想開始
- 2016年 — Zigの最初のコードをGitHubで公開。「C言語をシンプルに改良する」というビジョンを表明
- 2017年 — セルフホスティング(Zigコンパイラ自身をZigで書く)への移行を開始
- 2019年 — ZigソフトウェアファンデーションをAndrew Kelleyが設立。非営利組織として開発を継続
- 2020年 —
zig cc(CのクロスコンパイラとしてZigを使う機能)が広く注目される。多くのプロジェクトがCのビルドツールとしてZigを採用し始める - 2022年 — Bun(Node.jsの高速代替ランタイム)がZigで実装されていることが判明し、爆発的な注目を集める
- 2023年 — バージョン0.11.0リリース。ビルドシステムAPIが大幅に整理される
- 2024年 — バージョン0.12〜0.13系でコンパイラの安定性が向上。1.0リリースに向けた取り組みが継続中(2026年時点でまだRCフェーズ)
関連する言語・技術との比較
C / C++ / Rust / Zigの位置づけ
低レベル制御の重視度
高
│ C ──── シンプルだが安全性は低い
│ C++ ── 高機能だが複雑
│ Rust ─ 安全性最高だが学習コスト高
│ Zig ── シンプルで安全、C互換
低
学習コストの低さ→ 高
| 観点 | C | C++ | Rust | Zig |
|---|---|---|---|---|
| メモリ安全性 | ✗ | △ | ◎ | ○ |
| 学習コスト | 低 | 高 | 高 | 低〜中 |
| C相互運用 | ◎ | ◎ | △ | ◎ |
| ビルドシステム同梱 | ✗ | ✗ | ✓(Cargo) | ✓(zig build) |
| コンパイル速度 | 速い | 遅い | 遅い | 速い |
| 言語仕様の小ささ | 中 | 大 | 大 | 小 |
| 1.0安定版 | ◎ | ◎ | ◎ | △(未) |
ZigとRustの使い分け
Zigをビルドツールとして使う(zig cc)
Zigが特に実務で注目される使い方が zig cc です。これはZigに同梱されているCコンパイラ機能で、既存のCプロジェクトを別途ツールチェーンをインストールせずにさまざまなOSやCPU向けにビルドできます。
# Linux向けにmacOSからCプログラムをクロスコンパイルする例
zig cc hello.c -target x86_64-linux -o hello_linux
# Windows向けにもワンコマンド
zig cc hello.c -target x86_64-windows -o hello.exe
関連用語
- ./077-c-language.md — C言語 — Zigが相互運用性を重視し「後継」を目指すシステムプログラミングの元祖
- ./076-rust.md — Rust — 所有権システムで高いメモリ安全性を実現するZigのライバル的存在
- ./079-llvm.md — LLVM — ZigがバックエンドとしてCPU向けコード生成に利用するコンパイラ基盤
- ./080-cross-compile.md — クロスコンパイル — 異なるOS・CPUアーキテクチャ向けにビルドする手法。Zigの得意分野
- ./081-webassembly.md — WebAssembly — ブラウザ上で動くバイナリ形式。ZigのコンパイルターゲットとしてWasm出力も可能
- ./082-build-system.md — ビルドシステム — ソフトウェアをコンパイル・リンクする仕組み。Zigは言語とビルドシステムが一体化
- ./083-memory-management.md — メモリ管理 — プログラムがメモリを確保・解放する仕組み。Zigはアロケータパターンで明示化
- ./075-bun.md — Bun — Zigで実装された高速なJavaScriptランタイム。Zigの実用例として有名