アイデンティティ攻撃への対策

クレデンシャルスタッフィング くれでんしゃるすたっふぃんぐ

不正ログインパスワードリスト攻撃多要素認証アカウント乗っ取りリスト型攻撃ダークウェブ
クレデンシャルスタッフィングって何?

簡単に言うとこんな感じ!

どこかで流出したID・パスワードのリストを使って、「このパスワード、他のサービスでも通じるんじゃない?」と片っ端から試す攻撃だよ。パスワードの使い回しをしてる人が狙われる、超リアルな脅威なんだ!


クレデンシャルスタッフィングとは

クレデンシャルスタッフィング(Credential Stuffing)とは、過去に流出したIDとパスワードの組み合わせリストを使い、別のWebサービスへの不正ログインを自動的に大量試行するサイバー攻撃手法です。「クレデンシャル(credential)」は「認証情報(IDとパスワードのセット)」、「スタッフィング」は「詰め込む」という意味で、流出した認証情報をログイン画面に次々と詰め込んでいくイメージです。

攻撃者はまず、ダークウェブ(一般的な検索エンジンからはアクセスできない闇のネットワーク)で売買されている流出済みの認証情報リストを入手します。次に、ボット(自動プログラム)を使って対象サービスのログイン画面にリスト内の認証情報を次々と入力し、ログインできるアカウントを探し出します。パスワードを使い回しているユーザーが多ければ多いほど、攻撃は成功しやすくなります。

この攻撃が厄介なのは、「正しいパスワードを使って正規のログインをしている」ように見えるため、システム側が不正アクセスと気づきにくい点です。ECサイトのポイント不正利用、銀行口座への不正アクセス、企業の機密情報漏えいなど、実害に直結する攻撃として世界中で被害が報告されています。


攻撃の仕組みと流れ

クレデンシャルスタッフィングは、次のステップで進行します。

ステップ内容攻撃者がやること
① 流出情報の入手過去の情報漏えい事件で流出したID・パスワードリストを取得ダークウェブで購入・入手
② ツールの準備大量ログインを自動化するボットや専用ツールを用意SentryMBA・OpenBulletなどのツールを使用
③ 大量試行対象サービスのログインAPIやフォームにリストを「詰め込む」1秒間に数百〜数千回の試行を自動実行
④ 成功リストの抽出ログインに成功したアカウントを自動で選別「当たり」アカウント一覧を生成
⑤ 悪用乗っ取ったアカウントを悪用ポイント窃取・個人情報売却・送金など

ブルートフォース攻撃との違い

似たような攻撃にブルートフォース攻撃(総当たり攻撃)がありますが、大きな違いがあります。

比較項目クレデンシャルスタッフィングブルートフォース攻撃
使うパスワード実際に流出した本物のパスワードあらゆる文字の組み合わせを総当たり
試行回数比較的少ない(リストの件数分)膨大(数億〜数兆回)
成功率パスワード使い回しがあれば高い長いパスワードは非現実的
検知の難しさ正規ログインに見える=難しい試行回数で検知しやすい

「パスワードリスト攻撃」との関係

日本ではパスワードリスト攻撃リスト型攻撃)とも呼ばれます。クレデンシャルスタッフィングはその英語の正式名称であり、意味はほぼ同じです。IPAや警察庁の資料では「パスワードリスト攻撃」という表記がよく使われます。


歴史と背景

  • 2011年〜2013年頃 — LinkedIn・Adobe・Evernoteなど大手サービスで数千万件規模の情報漏えいが相次ぎ、流出した認証情報がダークウェブに大量に出回り始める
  • 2014年頃 — 流出リストを使った自動ログイン試行ツールが登場し、専門知識がなくても攻撃できる環境が整う
  • 2016年 — 「Collection #1」など数十億件規模の認証情報コンボリスト(IDとパスワードの組み合わせ集)がネット上に出回り始める
  • 2017〜2018年 — 日本でも大手ECサイト・航空会社のマイレージ・金融機関など多数でパスワードリスト攻撃による被害が急増し、社会問題化
  • 2019年 — Akamai社の調査で、同社が観測したログイン試行の約90億回がクレデンシャルスタッフィング由来と報告され、規模の大きさが明らかになる
  • 2020年代〜現在 — ダークウェブ上の流出情報は累計100億件以上とも言われ、攻撃手法も進化。AIを使ったボットが人間の操作を模倣し、検知をより困難にしている

攻撃経路と対策の全体像

クレデンシャルスタッフィングの攻撃経路と主な対策

① 流出情報リスト入手 ダークウェブで購入 ② 自動ログイン試行 ボットで大量送信 ③ 成功アカウント選別 「当たり」を自動抽出 ④ アカウント悪用 ポイント窃取・情報売却 ログイン画面 Webサービス ECサイト・金融・SaaS 🔐 対策① 多要素認証(MFA) パスワードだけでは突破できなくする 🤖 対策② ボット検知・CAPTCHA 自動試行を検知・ブロックする 📊 対策③ 異常ログイン検知 同一IPからの大量試行・海外からのアクセスを検出

ユーザー側でできる対策

  • パスワードの使い回しをしない — これが最大の防御。サービスごとに異なるパスワードを設定する
  • パスワードマネージャーを使う — 複雑でバラバラなパスワードを安全に管理できるツール(1Password・Bitwarden・LastPassなど)
  • 多要素認証MFA)を有効にする — パスワードが漏れていても、スマホへのワンタイムパスワード(OTP)がないとログインできなくなる
  • 流出確認サービスを活用するHave I Been Pwned? などで自分のメールアドレスが流出していないか確認できる

システム・サービス提供者側でできる対策

対策内容効果
MFA(多要素認証)の導入ログイン時にパスワード以外の認証を追加◎ 最も効果的
ボット検知(CAPTCHA人間かボットかを見分けるチャレンジ○ 自動試行を遅延・阻止
IPレートリミット同一IPからの試行回数を制限○ 大規模試行を抑制
デバイスフィンガープリント普段と異なる端末からのログインを検知異常検知に有効
クレデンシャルチェック入力されたパスワードが流出済みか照合○ 流出済みパスワードを拒否
ゼロトラストアーキテクチャログイン後も継続的に信頼を検証する設計◎ 根本的な設計改善

関連する規格・RFC

規格・RFC番号内容
RFC 8959「secret-token」URIスキーム。認証トークンの安全な取り扱いに関する仕様
RFC 6749OAuth 2.0フレームワーク。パスワードに依存しない認証委譲の仕組みを定義
RFC 6238TOTP(時刻ベースのワンタイムパスワード)。MFAの中核技術
RFC 4226HOTP(HMACベースのワンタイムパスワード)。TOTPの基盤となる仕様

関連用語

  • 多要素認証(MFA) — パスワード以外の認証要素を追加してセキュリティを強化する仕組み
  • ブルートフォース攻撃 — パスワードをあらゆる組み合わせで総当たりする攻撃手法
  • パスワードマネージャー — 複数サービスの異なるパスワードを安全に保管・管理するツール
  • ダークウェブ — 通常の検索エンジンからアクセスできない匿名性の高いネットワーク空間
  • ゼロトラスト — 「何も信頼しない」を前提に継続的に認証・検証するセキュリティ設計思想
  • フィッシング — 偽サイト・偽メールで認証情報をだまし取る攻撃手法
  • CAPTCHA — 人間とボットを見分けるための自動チャレンジテスト
  • アカウント乗っ取り(ATO) — 不正ログインによりユーザーのアカウントを乗っ取る攻撃の総称